淡海悟郎


淡海悟郎

夢は沖縄の小さな島にミュージックスタジオを建設

淡海悟郎さん

一度耳にすれば「あっ、この曲か」とピンとくる人も少なくないだろう。淡海悟郎さんは現在、作曲家、編曲家、音楽ディレクター、マルチメディアプロデューサーとして活躍中。その制作活動は、CM、TVドラマ、映画、ミュージカル、アニメなど多岐にわたっている。「ニッサンセドリック」や「トヨタセプター」「ライオンママレモン」「東京ディズニーランド」などのCM音楽も淡海さんが手がけたものだ。

スキューバダイビングがきっかけ

そんな売れっ子ミュージシャンの淡海さんが、沖縄の離島に来年秋にもミュージックスタジオを建てたいと、地元の人との交渉を進めているという。自社のミュージックスタジオを都内に構え、ここを拠点とした仕事の基盤ができているというのに、なぜまた沖縄に……?

「その島を知るまでは、ひとつ所に構えて仕事をしたいという気持ちはさらさらなかった。むしろ、便利な土地を転々としながら一生『遊牧民』的生活をするんだろうな、ぐらいに思ってました。でもあの場所に立って、その意識がコロッと変わっちゃった。

要するに東京が日常だとすると、一番時間をかけないで非日常を味わえるという感じなんですよ。那覇までは羽田から飛行機で2時間15分。さらに島までは船でちょうど1時間くらい。朝羽田を発って、午後には島に着いてしまう」

きっかけはスキューバダイビング。今から10年ほど前、ダイビングのライセンスを取りたいと友人に相談したところ、紹介してくれたのが沖縄・慶良間諸島の一角をなす離島だった。那覇空港の沖合い40キロほど西にある小さな島だ。

「もう一目で気にいってしまった。ここにスタジオを構えたい!って。だって世界一きれいなんですよ。これまで世界有数といわれるダイビングスポットをいくつも潜ってきたけど、やはりそのどこよりもすばらしい。人口わずか600人の小さな島ですが、大きなホテルやリゾート施設が進出していない分、素朴な昔のままの風景が残されていて、そこがまた魅力なんです」

『グイン・サーガ』の世界を見事にサウンド化

淡海さんは、受験校で知られる開成高校から東京芸術大学音楽学部作曲科に進んだ変わり種。在学中に作曲したミュージカル『白い川』で芸術祭優秀賞を受賞するなど、早くからクラシック以外の分野でも活動の場を広げていた。

「卒業後の数年は、演奏活動の方が多かったんですよ。シャンソンのピアノ演奏をしたり、芸能プロダクションに入って歌手付きのピアニストをしたり、ハードロックバンドを結成してライブ活動したりとかね」と淡海さん。さまざまなジャンルを縦横無尽にかけめぐった音楽歴は、その後の作曲活動に確実に反映されている。

その代表作といえば、栗本薫原作『グイン・サーガ』のイメージアルバム『グイン・サーガ』だろう。100巻に及ぶ壮大なスペクタクル巨編を、大編成のオーケストラ、ハードロック、民俗音楽、自身のピアノやシンセサイザー演奏をちりばめて、見事にサウンド化してみせた。すでに12枚のCDが発売され、続編が待たれている。

「まあ現実問題として、東京のスタジオをすべて引き払って100%島で仕事をするというのは難しいと思います。でも、音楽業界を取り巻く環境もだんだん変わってきていて、ミュージシャンが気に入った場所にスタジオを作って、そこの空気を存分に吸いながら好きな音楽を作るということも、あながち不可能なことではないんです。それに東京で作っているものとは全く違うものができると思うんです」

琉球文化そのものにも興味を……

今のところ、東京、沖縄の仕事配分はフィフティフィフティになるだろうという。「おそらく向こうでは、あまりお金にならない、自分のやりたい仕事ばっかりやるんだろうな」と淡海さん。立原道造の詩すべてに曲をつけることをライフワークとし、すでに3枚組CD『萓草に寄す』『優しき歌』『暁と夕べの歌』を出しているが、この続編制作も“自分のやりたい仕事”の一つ。そして現在温めているという自作のオペラも……。

「ただ海がきれいだというだけでなく、だんだん沖縄というか琉球文化そのもが面白いなあと思うようになりました。わかりやすいところで言えば食文化。ゴーヤ(ニガウリ)も最初は食べられなかったけれど、今はあんなウマいもんないって思う。古酒もうまいし(笑い)。

それから音楽。あれだけ楽器が日常の生活に溶け込んでいる場所って、日本で沖縄をおいてほかにないと思う。客待ちしているタクシーの運転手が、後ろの席でのんびり三線弾いてたりするんです。それがあたりまえの光景なんですよね」

目下最大の夢は「島のレーベルを作って、インターネットを通じて発信すること」とか。沖縄発の“淡海ミュージック”に乞うご期待だ。

淡海悟郎のプロフィール

本名・松井拓。音楽・映像などのマルチメディア制作会社、株式会社トーンマイスター代表取締役。作曲、編曲、演奏、プロデュースなど、幅広い分野で活躍中。

代表作:立原道造の詩による三つの歌曲集『萓草に寄す』『優しき歌』『暁と夕べの歌』や、栗本薫原作によるイメージアルバム『グイン・サーガ』シリーズ(日本コロムビア)など。

ほかに、ファミリーミュージカル『母を訪ねて三千里』『小公女セーラ』『若草物語』『ゲゲゲの鬼太郎』、ミュージカル『グインサーガ~炎の群像』、オペラ『愛奴』、劇場用アニメ『超人ロック』『グレイ』、TVアニメ『ピグマリオン』『とんでぶーりん』、TVドラマ『木曜ゴールデンドラマ』『土曜ワイド劇場』、ほかCM多数。

NHK『おかあさんといっしょ』、教育テレビ『英語であそぼ』や、ベネッセコーポレーションなどに子どものための音楽も多数提供している。

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