琉球独立論【松島泰勝】

琉球独立論


書籍名 琉球独立論
著者名 松島泰勝
出版社 バジリコ(292p)
発刊日 2014.07.20
希望小売価格 1,944円
書評日 2014.09.11
琉球独立論

福島第一原発の事故が起こるまで「原発安全神話」なるものがあって、よく考えればどんな技術にも絶対安全はありえないのに、なんとなく安全だと思いこまされてきた。言葉の嘘にだまされていたわけだ。似たような言葉に「固有の領土」というものがある。尖閣諸島、竹島、北方領土について、相手国となにかあるたびに政治家や役人の口から飛び出す。「尖閣諸島は我が国固有の領土である」といった具合に。

実はこの言葉が正当性をもつためにはもうひとつの前提がいる。「沖縄(琉球)は我が国固有の領土である」ということだ(沖縄のことを以下、著者にならって琉球と表記しよう)。琉球王国は薩摩藩による間接統治があったにせよ600年つづいた王国だったから、これは明らかに歴史的事実に反する。「固有の領土」という言葉もまた、戦後日本人が疑うことなく使っている神話のひとつかもしれない。

琉球に関して、もうひとつ言葉にだまされている、あるいは言葉によって隠されていると感ずることがある。僕たちは日本史で、明治12年、維新政府が琉球王国(既に琉球藩とされていたが)に軍隊を送って沖縄県としたことを「琉球処分」と教えられた。当時、明治政府の担当官を「琉球処分官」と呼んだり、支配─被支配の関係を伺わせる言葉だったからこそ使われたのだろうが、今となっては誰もがすぐに何のことか理解できる言葉ではない。これを世界史の一般的な言葉で言いなおせば、「琉球王国を併合」ということになるだろう。

著者の松島泰勝は石垣島生まれで、島嶼経済の研究者。パラオやグアムで太平洋の島々が独立に向けて動く現場で働いてきた。去年、琉球民族独立総合学会を立ちあげ共同代表になっている。この本は、まず第一部「琉球小史」で琉球の歴史をふりかえり、第二部「なぜいま独立なのか」で現在の植民地的な実態と独立論の系譜を述べ、第三部「琉球独立への道」で具体的な独立の方法を論じている。

松島がまず強調するのは、琉球の人々は風土、文化、歴史を共有する独自の民族ということだ(人種ではない)。その前提に立って琉球の歴史と現在を考えていくのだが、僕がこの本ではじめて知ったことを一、二メモしておこう。

明治12年の琉球王国併合の際、清国はこれを認めずアメリカ合衆国大統領に調停を求めた。その調停の過程で、明治政府は沖縄諸島以北を日本領とし、尖閣を含む宮古・八重山諸島を清国領とする提案をしていた。この案に清国も同意し、いったんは署名直前までいったが、琉球人が激しく反発し、清国でも反対派が大勢を占めた。そのため、この分割案は採用されなかったという。

この段階で明治政府は、尖閣諸島はおろか宮古・八重山まで清国に譲ってもいいと考えていたわけだ。明治以降の琉球の歴史を考えると、琉球併合はその後の台湾、朝鮮の植民地化、満州国の建国という大日本帝国の海外侵略の第一歩であり、最初に併合された琉球はそのための道具として切り売りされようとしたことがわかる。

現在の琉球の経済状況を示す数字も興味深い。2010年に琉球が県外から受け取った所得の構成比は、国からが47.0%、観光収入20.1%、米軍基地から10.4%となっている。よく「米軍基地が沖縄経済を支えている」と言われるけれど、国の補助金その他に比べると意外なほどに少ない。また県内歳入のうち地方税、地方交付税、国庫支出金(補助金)の構成比は、地方税15.6%(全国平均17.5%、以下同)、地方交付税30.0%(17.5%)、国庫支出金30.4%(27.3%)となっている。

「この統計が意味するのは、日本政府からの公的資金に大きく依存した従属的経済構造となっていることです。『復帰』後、琉球の経済は自立の方向には向かわず、日本政府への依存度をより深めていることがわかります」

琉球は復帰前に比べると農林水産業と製造業が大きく後退し、観光業を中心としてサービス業に偏っている。一人当たり県民所得は年間203万円(全国平均273万円)。失業率は6.8%(4.3%)、なかでも若年層の15~19歳では22.2%(7.9%)。非正規雇用者の割合は39%(33%)。「食糧自給、物的生産の基盤は脆弱であり、島外への依存度が増し、日本国内外の政治経済や社会の変化に島の経済が左右されやすい歪な経済構造となっています」。これを一言で言えば「植民地」ということだと松島は言う。また広大な米軍基地の存在や日米地位協定からも明らかなように、琉球は日本だけでなくアメリカからも二重の「植民地」とされている。

琉球への日本政府からの投入資金の大きさについて、逆から見れば日本国はこれほど沖縄に金を注ぎこんでいるじゃないかとの言い方もできるかもしれない。しかし補助金はその使い道が国によって決められ、しかも大部分は公共事業で、その半分は県外の企業が受注している。松島は「自主的運用を許されない資金など、経済の本質的な自立を促進するはずもなく、いたずらに依存心を高める一過性の麻薬にしか過ぎない」と述べ、それを受け取る琉球人にも「骨くされ根性」と手厳しい。ついでに言えば、過去に琉球王国が宮古・八重山や奄美を支配し、差別した歴史に対しても厳しく批判している。

さて、琉球にはどのような独立の道があるのか。その前に知っておくべきことがある。国連の市民的及び政治的権利に関する国際規約委員会が琉球に関して日本政府に次のように勧告していることだ。「アイヌの人々及び琉球の人々を特別な権利と保護を付与される先住民族と公式に認めていないことに懸念を持って留意する。締約国(日本)は、国内法によってアイヌの人々及び琉球・沖縄の人々を明確に認め、彼らの文化遺産及び伝統的生活様式を保護し、保存し、促進し、彼らの土地の権利を認めるべきである」。琉球人を琉球民族として認め、独自の文化や言語を持つ権利を保障せよということだ。数年前にアイヌ民族を先住民族と認める国会決議があったのは知っているが、琉球にも同じ見解が出ているとは知らなかった。

また国連脱植民地化特別委員会の下で、いま世界の17の地域が独立を目指しているが、それは次のようなステップによる。
・ 国連脱植民地化委員会で自らの植民地状況、脱植民地化を訴える。
・ 国際社会から支援されながら、完全独立、自由連合国、大国への統合などから一つを選択する。
・ 国連監視下で住民投票をして、新たな政治体制に移行し、独立する。

実際に1960年以降、ツバル、ナウル、パラオ、ミクロネシア連邦といった太平洋の島々が独立した。これらの島嶼国や、先進国の例として現在住民投票の準備が進んでいるスコットランドが琉球独立の参考になるという。

独立後の姿について松島は、「日本や中国への帰属を拒否し、琉球人の琉球人による琉球人のための独立」であることを強調している。「覇権国家中国」には支援を求めず、台湾を含む太平洋島嶼国と連携した社会経済圏をめざすとも言っている。日本人に対しては、琉球の独立を支援することが日本の利益になると述べる。

とはいえ、独立は国際関係に直ちに影響を与えるきわめて政治的な問題だから、独立をめざす活動は当事者の考えを離れて関係する国々の思惑のなかに放り込まれる。確か琉球の血をひく佐藤優だったか、中国は早くも松島らの琉球民族独立総合学会に注目していると言っていた。松島らの学会が「酒場の独立論」でなく、具体的な展望と運動をともなっているからだろう。

この学会を中心とする独立運動が琉球人のどれだけの支持を得ているのか、これから得られるのかはわからない。日本国民のひとりとしてこの活動を支援するかどうかはともかく、まず考えなければならないのは、琉球人が日本に帰属していてよかった、これからも日本に帰属したいと感じられる環境をどう整えるかということだろう。基地の押しつけとヒモつき補助金の「アメとムチ」はもう限界にきていることを知らなければならない。とりあえずの一歩として、米軍基地の「本土並み」への縮小と、琉球人としての文化・教育の保障、琉球内の産業を育成するための支援などが最低限必要なことだろう。

それと同時に僕たちが心しなければならないのは、100年、200年の長い射程をもって歴史ときちんと向き合う姿勢だ。僕らが疑うことなく使う「固有の領土」という言葉や琉球の現状への認識は、100年どころか「敗戦の意味を忘却することによってのみ成立しうる」(白井聡『永続敗戦論』)射程の短いものだった。「戦後レジームからの脱却」が必要なのはこっちのほうなのだ。(雄)

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