今月の本棚

もっとも多くの偶然を、先行して所載
「偶然の一致 99の事件簿

津田良一 著
二見書房(258p)1995.3.25
486円

  
アンソロジー文庫本ながら、先達の力作
 集めも集めたりの数ゆえに取り上げた訳ではない。この本の初版の年号を見ていただきたい。ノストラダムス、ハルマゲドンと騒がれた1999年に多く出たアンソロジー本の、その種本と思われるのがこの本である。しかもこの類の本にしては売り切りではなく、年を隔てて重版されている代物ナリ。

 もちろん、これとてアンソロジー本ではあるが、参考文献欄を見ると、なるほどと合点がいく。学術書から一般ゾッキ類本、雑誌までよく洗ってある。なかでも、ユング関連など心理系の専門書には丁寧に当たってあり、著者は、ユングのシンクロニシティ概念を不思議・偶然現象を解く鍵と考えているようだ。二見書房お抱えのようで、これまでに同類7冊をものしている。

 この本は、序章も含めると全11章立て。他書との重複を避け、面白偶然話を少しばかり・・。

 偶然の一致、1952年日南海岸で一匹の潔癖小猿「いも」(この現象の前に命名)が偶然いもを洗って砂を落とす方法を発見、それ以来、母親を通して次々と伝播、観察していた人が数えて101匹目からは一斉に洗い出したという、しかも遠く離れた別の所(例えば高崎山)の猿たちも一斉に同種行動をとり始めた不思議。

 1962年のアメリカ、靴修理の夫が殺される夢を見た妻が現実にその事態を迎える。しかし、彼女が夢の中で見た犯人を熱心に警察に訴えると渋々似顔絵で手配、何とそっくりの犯人現る。

 戦前に心理学者の世界で透視現象などを研究し術者にだまされて学者生命を失った人以来、日本の学界ではこの類はタブーだが、あの宮城音弥だけはさすが別格、彼の本の中から紹介されているのは、兄嫁から夢で死の相談を受けた男が数時間後に病死の報に接した例、よく言われる肉親というより、気に掛かる人というのが夢での告知を受けやすいのだそうだ。

夢のお告げ、共時性のもたらすのは・・・
 ところで、「シンクロニシティ」(朝日出版社)というずばりの題名の本が出版されているが、時の裂け目に入るのはタイタニック同様に、船、飛行機が多い。

 その名も「フライデー」号の処女航海は、忌まれている金曜日の出帆、そのまま行方知らず。日本でも、ハイテクを凝らした海上調査船「ヘリオス」が1986年に消失、同じく処女航海であった。

 ユングの流れはボーレンに引き継がれ、少しカルトティックな「タオ心理学」として発展して行ったが、その本の例。ある女性が停車中、追突事故に遭う、次は走行中に車線変更して来た車にぶつけられ、3度目は初回と同じく停車中に追突される、そして加害者はいずれも女性、ボーレンいわく、当時被害者が職場で一方的に受けていた謂われない同僚女性からの被害の状況の反映だった。何故なら、3度目の折は、ブレーキの故障の故だったが、その頃に職場の同僚の車もブレーキが故障中だった。

 これは、フロイトの流れだが、夢にはコンペンセーションつまり補償作用があるというのが定説だ。願っていること、恐れていることが・・・夢に現れる、済んでしまう。

 イギリスはシュロップ州の貧乏人のベティさん、ある夜、古代兵士たちが何かを埋める夢を見る、翌夜はそれを掘り出す姿、醒めて見慣れた藪に行ってみると硬貨の散乱、その話をすると家族は信じない、さらに数日後に同じ夢を又、今度は掘り返してみると金銀貨がザクザク、この話には続きがあり、この発見を伝え聞いた考古学者が調査に乗り出し「古代都市ユーリコニューム」を発見、それは古代ローマ跡だった。

 今一つの全体の体制化がほしい所だが、広汎に偶然事象が織り成されていて、読んで楽しい。いずれこの領域は、コリン・ウイルソンあたりが本格的にパラダイムをつけてくれるのかも知れない。(修)