今月の本棚

最新のサスペンス・ノベル、
旧東独シュタージと英MIの死闘

「暗殺阻止 上・下」

デイヴィッド・メイスン著
山本光伸訳
早川書房(上下巻計585p)1997.8.31 
1,900円

 冒険小説は、日本作家の手になるものも一定の評価を得るに至って久しいが、カタカナの世界も健在で、これはメイスンの待望の第2作目。今回はその人の名を探ることがメインテーマとなる世界的重要人物が暗殺対象、画像が的を特定して狙撃するIRISなる新兵器との闘いでもある。

 冒頭は英元首相の誘拐から始まる。招集されたのは、前作「バビロンの影」同様に英国の元特殊船艇部隊SBS、いまはXF警備社の精鋭。相手はベルリン崩壊後、解体が伝えられる東独シュタージ、今なお健在で国際的謀略を請け負っているという設定である。

 舞台は北朝鮮の核開発地区ヨンピョン、そこへの侵入で一挙に戦闘場面となる。お決まりのメンバー内の裏切り者の陰、退路の遮断などストーリーは二転三転する。複数の事件の意味が解きあかされるのは最後の最後。

 この作者はやさしさがあり、随所に置かれた伏線がむしろ先への興味をかきたててくれるところは、ひところはやったラドラムよりは一枚上、映像的な喚起力も強く、一気に読み進める。1996年の作品で、時宜を得たニュースもモザイクされている。願わくば、人物描写に負けない風景描写が加われば、娯楽小説にリリシズムを持ち込めるかも知れない。(修)